お酒は人付き合いも含めてわたし達の生活に溶け込んでいます。世界では成人の43%が少なくとも1年の1回はお酒を飲み、日本では男性の75%、女性の55%がお酒を飲んでいると報告されています。
こういった文化の中でトレーニングやダイエットに挑戦する人は、お酒の影響が気になることもあるかと思います。
今回の投稿では、筋肉を付けたり体脂肪を落としたりするのにお酒がどう関わってくるか、現在の科学的知見を見ながら考えていきます。
アルコールとは?
お酒のアルコールは正確にはエタノールと呼ばれ、果物や穀物に含まれる糖分を酵母で発酵させることで作られます。アルコールには1gあたり7kcalのエネルギーがあり、代謝時に15%ほど消費されることから、5.7〜6.2kcalと紹介されることもあります。

アルコールにはカロリーがあるのですが、他の栄養素と違って身体の機能に使われることはありません。
お酒を飲むとアルコールが血流に取り込まれ、大部分が肝臓に送られます。そして、肝臓ではエネルギー源として使えるように酢酸という形に分解されます。
アルコールはたくさん摂っても体脂肪に変換したり蓄えたりするのは難しく、わたし達の身体は優先的に分解処理しようとします。アルコールの分解を優先すると脂肪の燃焼が抑えられ、結果的に肝臓の中に脂肪が蓄積されやすくなります。
そして、こういう生活が長く続くと、アルコール性脂肪肝という病気につながります。
他の食べ物や薬でも言えることですが、アルコールが害になるかは摂取量によります。自分の身体にとって過剰な量になるかが重要なわけです。
わたし達の身体がアルコールを処理する能力は複数の要因によって変わります。まず体重の影響が大きく、それに加えて体水分量や除脂肪量も関連します。
アルコールは水に溶けるので、体内の水分に分散する形になります。女性は男性に比べて体水分量が少なく、同じ量のアルコールでも血中アルコール濃度が高くなりやすいという特徴があります。
日本では「生活習慣病のリスクを高める量」として男性は40g、女性は20gという目安が設定されています。アルコールの摂取量に関して男女を区別して語られるのは、そういう身体の違いが存在するためです。

各国の目安はそれぞれ意味づけが違うので、数値を直接比較できるものではありません。ここでは各国が男女に分けて数値を定めていることがポイントです。
他には、お腹の中にある食べ物、酵素、年齢、お酒を飲む頻度なども関わってきます。お酒への酔いやすさや、酔いのさめやすさが人によって大きく違うのは、こういった要因が絡み合っているためです。
お酒の科学的知見
お酒が身体に与える影響を考えるには、科学的な研究結果が一番頼りになるのですが、お酒に関する研究には制約があります。
例えば、筋トレをしたときにわたし達の身体にどんな変化が起きるかを知るには、実際に筋トレをして身体の変化を測定するのが最も確実です。こうやって筋トレと身体の変化の因果関係を調べる研究がたくさん行われています。
しかし、お酒に関しては、実際に被験者にお酒を飲ませて何が起きるかを調べるような研究は数が限られています。被験者の健康を害する恐れがあるので倫理的に問題があるのです。
こういった制約から、お酒に関する研究は動物を使った知見、生体外で細胞などを使った知見などを頼りにする部分があります。他には、普段からお酒を飲んでいる人の生活を観察して、その人達にどういう特徴があるかを調べる研究もありますが、因果関係を明確にしにくいという弱点があります。
例えば、お酒をたくさん飲む人は太っていることが多いと示すデータがあるとき、太っている原因が本当にお酒なのかを考えることが必要です。お酒のアルコールが原因になっている可能性はありますが、お酒には炭水化物のカロリーが含まれることもありますし、お酒と一緒に食べるものにもカロリーが含まれます。アルコールがどれだけ太る原因になっているかを正確に見極めるのが難しくなるということです。
このように因果関係を直接明らかにする研究が限られているので、今回の投稿では間接的に参考にできるデータを組み合わせて、多面的に分析していきます。
アルコールは太るのか?
わたし達の身体はアルコールをうまく脂肪に変換できないので、アルコールが直接的に体脂肪になることはほぼありません。
ただ、1日アルコールだけを飲んで過ごすことはなく、アルコール以外にも何かを飲んだり食べたりするものです。そこで摂るたんぱく質、脂質、炭水化物にはもちろんカロリーが含まれており、お酒のカロリーと合わせると、全体としてカロリー過多になりやすくなります。
その結果として、食事から摂った脂質が燃焼されず体脂肪として身体に蓄えられるというルートをたどるのが最も一般的です。
アルコールがカロリー摂取量を押し上げる
アルコールがカロリー摂取量を押し上げ得ることは明確で、研究でも示されています。過去の研究データをまとめた論文では、アルコールを8〜56g摂った場合、全体のカロリー摂取量は確かに増えることが報告されました。
ただ、カロリー摂取量が増えた大部分はアルコールによるものでした。つまり、食べ物の量は変わらず、アルコールで摂った分がシンプルにプラスされて全体の摂取量が増えていたということです。
他の研究では、お酒以外でも飲み物をカロリーのないものに置き換えるだけで体重が減ると示されており、その知見と合致する報告だと考えることもできます。
ただ、アルコールでカロリー摂取量が増えるとしても、それが太る原因になるのかは条件によって違いがあるようです。
たくさんの人の生活習慣を観察した研究データをまとめた論文では、飲酒量が少ないと体重や腹囲に影響が見られなかったと報告されています。ここでの飲酒量は、男性が1日2杯まで女性は1日1杯までというもので、男性ではまったく影響が見られず、女性に関しては少しお酒を飲む人の方が体重の変動が小さく抑えられている可能性まで示唆されました。
これはお酒と体重のあいだに因果関係を示すタイプの研究ではなく、あくまでも表面的に観察できる関連ということですが、少しの量であれば必ず太ってしまうとは限らないようです。
ただ、飲酒量が多い場合には影響が大きくなると考えられます。たくさんの人の生活習慣を観察した研究を127本集めて分析した論文では、飲酒量が多い人は体重が重かったり肥満だったりする関連が見られました。
また、飲酒量の多い人はお腹まわりに体脂肪がつきやすい可能性が示されました。この傾向は国や文化が違っても変わりなく見られました。例えば、アイルランドの大規模な調査では、飲酒量が増えるとお腹まわりのサイズやBMIの数値が高くなることが示されました。韓国人男性を対象としたデータでも、暴飲する人は肥満のリスクが高いことが報告されています。
ここで取り上げているのはお酒を飲む量であり、お酒を飲む頻度とは区別して考えることが大切です。お酒を飲む頻度に関する研究では、高頻度であっても1日1杯など飲む量が控えめであれば、必ず体重が増えるわけではないと示されました。
全体での飲酒量が少なければ、高頻度であっても目立った影響は出にくく、低頻度でもたくさん飲む方が影響が出やすいようです。お酒の影響は頻度よりも量に注意すべきだと言えそうです。

やや例外的なパターンとして、アルコール依存症のような障害がある場合には、たくさんお酒を飲んでいるのに痩せている状態が起こり得ます。アルコールからたくさんカロリーを摂って、あまり食べ物を摂らない生活になると体重が減ることがあるのです。
もちろんお酒ばかり飲んでダイエットをしようとするべきではありません。飲酒量が多くなると筋肉を維持しにくくなり、健康にも悪影響が出てきます。
アルコールで間接的に太る効果
アルコールを摂ると自制が効きにくくなります。いつもなら食事を終えているところであっても、お酒が入ることでついつい食べ物に手が伸びてしまうことがあり得ます。大学生の日常生活を調べた研究では、お酒を飲んだ日には食べ過ぎてしまったと答える人が多くなりました。
アルコールは睡眠にも影響を与えます。過去の研究をまとめた論文では、お酒2杯で睡眠の質が下がり、お酒の量が増えるほど睡眠時間全体に乱れが大きくなったと報告されています。
また、双子の生活を長期間調査した研究でも、お酒を飲む頻度が高い人は睡眠の質が悪い傾向があると報告されています。双子でこういう結果が観察されていることから、睡眠の質が悪いのは生まれ持った遺伝的体質や家庭環境ではなく、お酒の影響だと考えやすくなります。
睡眠が十分に取れないと筋肉が付きにくくなったり、体脂肪が落ちにくくなったりするのに加えて、食欲が強まる可能性もあります。お酒によって睡眠の質が落ちると、身体づくりにも悪影響があり得ると言えます。
アルコールは筋肉を削る?
アルコールが筋肉に与える影響は飲酒量によって変わるようです。細胞レベルで見ると少量のお酒でも筋細胞のエネルギー代謝に影響が出ることがあります。また、アルコールによってmTORという代謝経路が働きにくくなり、筋たんぱく質合成が抑制されることがあります。つまり、体内の仕組みから考えると、アルコールが筋肉に悪影響を及ぼす可能性があると言えます。
ただ、お酒を飲んだときにどの程度の影響があるのかは、実際に行って直接調べてみるのが最も確実なので、参考になる研究を紹介します。
この研究に参加した被験者は、10週間ほぼ毎日1〜2杯のお酒を飲みながら高強度インターバルトレーニングを週2回行いました。飲み物は普通のビール、ノンアルコールビール、ウォッカ、ただの炭酸水から選択する形が取られました。
結果を見ると、被験者は全員体脂肪が減りながら、除脂肪体重が増えており、お酒による悪影響は確認されませんでした。除脂肪体重の変化は大きなものではありませんでしたが、1日1〜2杯のビールを飲みながらでも体重を保ち、筋肉を増やすことができたのだと考えると興味深い成果です。この程度の飲酒量なら、それほど悪影響はなさそうだと考える材料になります。

他には、日本人の健康診断データ約2万人分を分析した研究があります。ここでは飲酒量によってデータをグループ分けしました。1日あたり2〜4杯程度であれば除脂肪体重への影響は見られませんでしたが、1日4〜5杯以上になると特に男性で除脂肪体重が低くなる関連が見られました。この研究で見られた影響は大きなものではありませんが、飲酒量が多いと除脂肪体重に悪影響が出ると考えることはできそうです。
もうひとつ、アルコールが筋肉の回復に与える影響を調べた研究があります。筋トレとサイクリングを組み合わせたキツい運動のあと、お酒を6〜12杯飲み、身体の反応を調べたところ、運動後の筋たんぱく質合成が抑えられていることが確認されました。

お酒を飲まずにたんぱく質を摂った場合と比べると、お酒と共にたんぱく質を摂った場合で24%低く、お酒と糖質を摂った場合には37%低いという結果になりました。
1日に6〜12杯というのはかなり多い方ですが、他の研究の結果と比較して考えると、飲酒量が増えるほど筋肉の回復や合成への悪影響が強くなっていくことが分かります。
このように人が実際にお酒を飲んだ研究をまとめた論文では、飲酒量が多くなると筋たんぱく質合成が抑制され、テストステロン分泌が下がりコルチゾル分泌が高まるといった影響が報告されています。
この論文で取り上げられたデータでは若い成人が対象となっていました。この研究結果がそのまま高齢の人にも当てはまるとは言い切れませんが、もともと高齢者は身体の回復に時間がかかる傾向があります。運動の効果や疲労回復を重視するならお酒に良い効果を期待しない方が賢明でしょう。
減量時のアルコール
体脂肪を減らすにはカロリー収支をマイナスにする必要があります。そもそもカロリーを多く摂れない中でお酒を飲むと、普通の食べ物を摂れる余地が小さくなり、三大栄養素やビタミン・ミネラルといった身体に必要な成分を確保するのが難しくなります。
減量ペースがゆっくりで厳しくカロリー制限をしなくてもいい状況なら、多少のすき間はあるかもしれませんが、基本的に減量中にお酒を飲むのは良いとは言いにくいです。
減量期間にお酒を飲む機会を作るなら、他の日のカロリー摂取量を調整して、1週間くらいのスパンで見たカロリー収支に大きな影響が出ないようにすると良いかもしれません。カロリー制限をあまり意識しなくてもいい日を作ると、減量中にもお酒を取り入れやすくなるはずです。
増量時のアルコール
増量時にはカロリー摂取目標が高くなるので、普通の食べ物を摂る量も増え、必要な栄養素を確保できていると考えやすく、お酒を取り入れる余地が大きくなります。
お酒を飲むことで必要なカロリーを確保しやすくなると考えることもできるかもしれません。ただ、飲酒量が多くなると筋肉の合成が抑制され、分解が進んでしまいやすくなることには注意が必要です。
お酒を飲む頻度が高くても、少量であれば目立った影響は出にくいようですが、頻度も量も行き過ぎないように意識しておくのが賢明ではあるでしょう。
実践のマメ知識
同じ種類のお酒でも、ブランドによってアルコール含有量は大きく変わることがあります。例えば、ビールのアルコール度数は4.7%だったり9.8%だったりします。ビール1杯でアルコールは20g以上になることもあり得ます。
カロリーを計算する際には、アルコールを炭水化物に置き換えて考えると頭を整理しやすく、たんぱく質と脂質を目標どおりに摂りやすくなるかもしれません。例えば、アルコールで200kcal摂ったら、計算上は炭水化物50gとして扱うということです。もちろん実際にアルコールを摂ったことは変わりませんが、細かい計算のストレスを減らしつつ、少量のお酒を取り入れやすくなります。
お酒を飲む日も食事記録を取ることにはメリットがあります。旅行に出たり、食事記録から離れて精神的に休むような場合を除いて、週末や休日にも食事記録を取るのがオススメです。お酒を飲むことがあっても、それも含めて記録を取ることで、自分の食生活を明確に把握することができます。そして、食事やお酒の摂り方が自分の体形、食欲、睡眠などにどう影響しているかを考える材料になります。
マクロファクターは食事記録を取る操作が非常にスムーズです。細かい記録を取るストレスを最小限に抑えて、正確な食事管理が行えるようになります。